2008年4月20日

上野/東京国立博物館・平成館「国宝薬師寺展」、東京都美術館「版画展」、丸の内/行幸地下ギャラリー「アートアワードトーキョー」、渋谷/シネマライズX「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」。


「薬師寺展」は、朝行ったのに人の数に驚いた。絵や仏像はじっと動かずそこにあるというのに、みんな順番に、そんなに焦らず、どうして観られないのか。なぜ押したり、我れ先にと人の間に突っ込んでいくのか。自分には理解できない。この展覧会の目玉である、日光月光菩薩立像は、やはりというか圧倒的な存在感。普段お寺にあるものを美術館に移動するというのは、些か無理があるようにも思うけれど、像の全体をぐるりと見回して、そのすみずみに行き届いている神経を目の当たりにして緊張した。観ているあいだだけ、音がなくなるような。日光月光は、それぞれ表情も違うし(自分は、日光は厳しい、月光はやわらかい表情に見えた)、衣の具合も身につけているものも、少しずつ違って、完全な左右対称ではなく、それがより美しさを増している理由に感じた。あとは、東塔水煙が(模造だけれど)造形的におもしろかった。「版画展」は高校の美術の先生たちが作品を出しているので観に行った。膨大な数の中、2人の作品だけを探した。「アートアワード」は去年も観に行った。これらが今年の卒制の中で選りすぐりの作品たちかあ、とぼんやり考えながら観ていた。気になったのは風能奈々さん。絵と、日々ドローイングを描き連ねているようなノートが展示してあって、ノートの方がよかった。作品をつくろうと意気込んで描いているというよりは、(ご本人もコメントしていた)日記、あるいはメモのような感覚に近いと思った。もちろん、大きな絵とそれらのドローイングは相互に関係しているのだけれど。


それから地上に上がって、新東京ビル1階にある丸の内カフェに行った。今まで知らなかったけれど、美術系の書籍が置いてあって、自由に読める無料休憩所。時間がなくて長居できなかったが、インターネットもできるみたい。飲み物やお菓子の自動販売機もあって、テラス席もあるし、カフェ自体は2階構造になっている。結構多くの人が利用していた。次回ここら辺に来たときは、ここを利用するとしよう。出発の時間まで、アルフレッド・ウォリスやジャン・コクトーの画集を眺めた。


最後は渋谷。絶対観ると決めていた「ヘンリー・ダーガー」のドキュメンタリーを観に。シネマライズXは初めて行った。今まで体験したことのない映画館の雰囲気。小さいし、2階建てだし、そのわりに座席が少ないし(自分は2階席で観た)、場内の壁面に絵や落書き(?)が描いてあるし…。映画は、タイトル通り、謎が謎のまま提示されていて、それが良かったように思う。解決しようとする想像力をかき立てる小さな刺激の集合という印象だった。もちろん解決することはおそらく不可能で、なぜなら、本当のこと(いくらアパートの住人や親しい人が彼について話したとしても)ダーガーのことはダーガーしか知らないことで、でももしかすると本人すら分からないわけだし、それよりも重要なのは、誰にもできないような想像力があったことが事実であることと、何より、あんなに綺麗な絵(世界)がこの世に生まれたという事実だろう。あとよかったのが、アニメーションだった。これは自分でも意外だったというか…。自分は最初、絵が動く、すなわち、さっき述べたように本当のことはダーガーしか分からないだろうに、他人が勝手に解釈した展開を見せられるということに、あまり好意を持てなかったけれど、意外にも違和感がなかった。たぶん、自分が想像していた通り、というか、ダーガーの絵を観たときに自ずと感じる、その世界の動きが、再生されたというか。ああいう動きになることは、他人ではなく絵自体がはなから物語っていたように思った。…などが見終わったあとの率直な感想かな。