2016年9月1日

映画のテーマは「蘇る」ということ。
人生に絶望しても、人はやり直す。
それは誰にでも経験があること。
傷を癒して、また失敗する。
そしてまたやり直す。
植物も、季節に応じて何度も芽吹く。
でも根の部分は変わらない。
この映画で描くのはそこだ。
何度も蘇る男の話だ。
アレハンドロ・G・イニャリトゥの言葉


レヴェナント:蘇えりし者
ヒュー・グラスの物語。
アメリカのフロンティア時代、狩猟をして毛皮を採取するハンターチームにガイドとして息子と一緒に同行していたグラス。
遠征していたチームが砦へ戻る途中、見回りをしていた森のなかで、グラスはグリズリーに襲われる。
一命を取り留めたものの自力で動くこともできず、即席の担架にのせられ仲間の手によって砦までの道を運ばれる。
しかし、極寒の山越えに自分たちの命の危険も感じること、またグラスは瀕死でもあることから、チームの隊長は特別手当を支給する代わりに「死ぬまで見届け、埋葬する者」を募り、グラスを見放してしまう。
そこに息子ホークと、グラスを慕うブリジャー(彼らは金はいらないと言った)がまず名乗りを挙げ、金のためにとフィッツジェラルドが最後に加わった。
チームと分かれ、林のなかに留まりグラスに付き添う3人。
長く保たないと予想していたグラスがなかなか死なないため、徐々に苛立つフィッツジェラルド。
しびれを切らして、「生にしがみつくな。」とグラスに襲いかかっているところをホークに見つかってしまい、ホークを刺し殺してしまう。
それを自由の利かない身体のまま、ただ見ているしかなかったグラス。
その後フィッツジェラルドはブリジャーをうまく騙してグラスを見捨て、砦を目指して去ってしまう。
極寒の大地、失うものは自分の命だけとなったグラスは地面を這って、300km以上離れた砦を目指し、フィッツジェラルドのあとを追う。


——


今年4月の映画公開時に初めて観たとき、これは人生で何度も観るタイプの作品ではないと思った。
それくらい特別な作品だったし、経験だった。
でも結局その素晴らしさに捕われて、劇場で3回観てしまった。
Blu-rayの発売が告知されるとすぐに予約して、手元に届くまで2ヶ月、指折り数えて待っていた。
それが先週末やっと届いて、ほぼ毎日観ている。






文字通り、破けた布のように「穴だらけ」になり、それを黒い糸で縫い合わされた身体。
傷の痛みに追い打ちをかけるように息子を失い、心も引き裂かれる。


「息子は俺のすべてだった。それを奴が永遠に奪った。」


瀕死の傷を負い、自分のすべてだった息子が殺されたとき、絶望の果てにグラスに残ったのは自分の命だけ。
「死」に身体半分を突っ込んだ状態から蘇ってくるグラス。
ほぼ消えかけている命を奮い立たせて、一歩一歩前進して行く。
そこにほとんど言葉はなく、にも関わらず多くを語りかけるレオナルド・ディカプリオの演技に圧巻してしまう。
こんなにいい俳優だったんだなあ、としみじみ思う。


これは観ないと分からない。
絶対に。
単なる復讐劇ではなく、ひとりの人間の命の物語。
命をつなぐのもまた別の命。
生きるために命を繋いで行く。
人間が動物の一種であることを意識せざるをえない映像が、迫ってくる。
自然光だけで撮影された映像の美しさと、時に残酷なまでに感じる力強さ。
自分が今まで観たどの映画にも類似しない作品だった。


息子の仇を討つ機会を手放したとき、グラスの復讐は終わったのだと思う。
その決断に至るまでにあるドラマ。
因果応報も描かれている。
作品の冒頭、フィッツジェラルドが蹴飛ばした相手は、ポワカの父親だったこと。
グラスが途中で助けた女はポワカだったこと。
そこから繋がるラストシーン。


序盤、グラスが息子ホークを叱るシーンは込み上げてくるものがある。
ホークは白人であるグラスと原住民ポーニー族の女性との間に生まれた子。
現代よりも差別が悪とされていなかった時代。
何かと突っかかってくるフィッツジェラルドの言葉に、息子以上に悔しい思いをしているはずなのに、ホークを守るためにグラスは語気を荒げる。
「白人はお前の言葉なんか聞かない。肌の色だけ見る。透明になって口をつぐめ。」
大人になるまで、ただじっと耐えるんだ。と言うように。
ここでもディカプリオの演技に胸が詰まる。
ちっとも大袈裟でなく、それでいて痛いほど伝わってくる。
子供を想う父親の気持ちを、あそこまで表現できるなんて。


この作品で、ディカプリオはアカデミー賞のオスカーを受賞した。
文句無しの主演男優賞。
授賞式の映像を見ていると、名前が呼ばれたときの会場全体がひとつになって祝福する様子には感動してしまう。
そして、このときのディカプリオのスピーチがまたとても良かった。
自分以外の人に賞賛を送り続け、この作品が描いているもう一面から見たテーマ「自然と人間」について言及した。
ステージの去り方も震えるほど格好いい(自分もこんな男になりたい)。